私が美容部員だった頃 

美容部員になったわけ

元々私が目指していた職業は小学校の教員でした。

しかし見事に採用試験に落ち、就職先もなく、家でブラブラする毎日。

1ヵ月ほどたったころ、新聞の広告で「美容部員の採用」を見て、ダメ元で試験を受けたら合格したのです。

美容部員とは、化粧品店などに入って、お客さんにメイクをしてあげたり、販売したりする仕事です。(そのメーカーではメイクアップアーティストと名乗っていました)

研修は1か月間みっちり研修所で缶詰になって、メイクの仕方、マッサージの仕方などを習いました。

フリーの毎日

そしていよいよ実際の仕事ですが、最初は毎日色々な店に行かされました。いわゆるフリーです。

美容部員ももちろんノルマがあって、その頃は一日4万円でした。

毎日色々な店に行きましたね。

スーパー、デパート、町の小さな化粧品店、繁華街の大きな化粧品店など。

町の小さな化粧品店は奥さんが実権を握っているので、奥さんに気に入られなければまず、売り上げは上がりません。

奥さんはフリーで来たお客さんに自分のお気に入りのメーカーを勧めるからです。

奥さんといかにうまくやるかが、売り上げを上げる方法です。

スーパーなどは通りすがりに購入するという人が多く、安いファンデーションや口紅などちょっと声を掛けるとあっさり売れることも多かったです。

売れているデパートに入る場合は同じメーカーの人がたくさんいるので、心強いし、売り上げも大きいので、みんなで売り上げを分けても確実にノルマを達成できます。

メイクショーなどのイベント

また、何か月に1回かはイベントがありました。

大きな売れているデパートやスーパーなどに大量の美容部員が送られ、ブースが作られ、メイクアップ教室だの、メイクショーなどというものが行われていました。

美容部員はいつもの制服は着らず、おしゃれなワンピースやスーツなどを着ます。

イベント時のノルマは1日10万でした。

10万のノルマを達成しようと思うと、1人か2人に高額の化粧品一式を買ってもらうしかありません。

カモになりそうな人に「まゆカットしませんか」と声をかけて、ブースに誘導し、先生と言われるすごく弁のたつ人や、先輩を呼んできて、2.3人でプッシュしまくります。

こういう販売力のある人はほんとにすごいです。

まず、独自の資料を作成していてそれを駆使し、化粧品の効能や効果を説明し、この客がどのくらい支出できるのかを見極め、売れるとわかるとほめたり「このままではあなたの肌は大変なことになる」などと脅したりして、10万円を達成します。

そのイベントが3日から1週間続きます。

入社して5年以上の先輩たちはほぼ毎日ノルマを達成します。

ノルマが達成できなければ、つるし上げみたいに反省の言葉を言わされます。

明日頑張りますといえば、先生から「明日じゃない、今だ」と怒られる始末。

私の達成度は半々というところでした。

あのイベントはほんとにつらかったです。

今はこんな販売方法していたらクレームの嵐でしょうけど、あの頃は許されていたんですね。

デパートのセクション

毎日同じ店に勤務することをセクションといいます。

私もフリーを経て、半年後とあるぜんぜん売れてない小さな小さなデパートのセクションになりました。

化粧品メーカーは5社しか入っていないような店で、セクションは皆1人ずつ。1社だけ3名いました。

1フロアに喫茶、紳士服、ハンカチ、傘などの小物、化粧品が入っていて、小さいのですぐにみんなと仲良くなって、楽しかったのですが、その店が全然売れない。

4万なんてとんでもなく、0からの脱出が毎日の課題でした。

隣のメーカーの美容部員と「売れた?」「まだ」「今日何買う?」「クレンジングにしようかな」「私はシャンプー」という会話が毎日繰り返されました。

0で帰るわけにはいかないので、3000円くらいの必ず使うクレンジングとか化粧水などを買って帰るのです。

美容部員だから安く化粧品が買えると思っている人がいるかもしれませんが、こういうことが当たり前なので、全然安く買ったことはないです。

小売店は美容部員にはだいたい2割引きで売ってくれました。

大手のあるメーカーは新製品のメイクが出ると、一式美容部員に提供されていたそうです。

私のいたメーカーはそんなのはなかったですけど。

そのデパートではお客さんからお菓子の差し入れをもらったりすることもありましたが、大量の化粧品の購入と引き換えに保険の勧誘をされることもありました。

一度「ブライダル」という大きなイベントがありました。

お客さんにメイクをして、レンタルしてきたウエディングドレスを着せ、写真を撮ってプレゼントするのです。

結婚前の若い人はもちろん、ウエディングドレスを着たことがないという60代、70代、最高齢は80代のおばあちゃんも参加しました。

シワシワの顔にメイクしてウエディングドレスを着て、笑顔で嬉しそうでした。

こういうイベントではお客さんを店に呼ばないと話にならないので、事前に店頭に来たお客さんに何度も宣伝したり、電話をしたりして、必死で集客しました。

その甲斐あって、当日は大成功でした。

月に一回の出社日に所長からほめられて、とても嬉しかったのを覚えています。

小さな化粧品店

そこから異動になって、次にセクションになったのは住宅街の化粧品店。

奥様が幅をきかせていると有名な店で、吸引やタッピングができる高価な美容器具が揃えられていて「お手入れ」を重視している店でした。

お手入れというのは、基礎化粧品一式を購入してもらい、それを店に置き、客は手ぶらでやってきてその化粧品でマッサージやパック、最後にメイクもします。

そのついでに新製品の案内などをして、帰りに買ってもらったりもします。

その店は常に2社のメーカーが入っていたのですが、1社がとても強くて私のメーカーは全く売れていませんでした。

売れてないので暇で暇で仕方ないのですが、奥さんがずっと店にいて常に目を光らせているのでサボることもできません。

外に出て声をかけて売りたくても、人通りがない住宅街。

そういう店なのでノルマ達成できなくても仕方なく、会社からも何も言われませんでした。

大きな化粧品店

半年くらいでまた異動になり、今度は繁華街の大きな化粧品店でした。

ここは主要な日本メーカーはもちろん、外資系メーカーも入っており、セルフで買う安価な化粧品も置いていて、駅近で売れている化粧品店でした。

セクションは2人で、相手の人は40代のおおらかな人でやりやすかったです。

ここはお手入れはあまりやっておらず、売るのが主でした。

美容部員だけでなく、店自体の従業員さんもいて、色々な人達との交流があり、他のメーカーの化粧品を試したり、実際購入することもあり、楽しい職場でした。

私が美容部員として働いたのは3年弱でしたが、人見知りだった私が初めて会った人と割とうまく話せるようになったのは、この時の体験が大きかったと思います。

接客業というのは、敬語も大切だし、話し方ひとつで感じがよかったり悪かったり、お客さんの受ける印象が変わってくるので、とても難しい仕事です。

若いうちにこんな体験ができたことはよかったのではないかと思います。

 

 

 

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