実家にかなり久しぶりに行った時。
母はいつも、夕食のおかずをあれこれ作ってもてなしてくれる。
もう90歳近いのだが、味付けは間違いなく、美味しい。
揚げ物も煮物も何でも作る。
料理が好きだし、作ることが苦にならないというから、いいことだ。
おしゃべり好きな母は、私が行くとおしゃべりが止まらない。
だいたいいつも同じ話の繰り返しなのだが、最近はすぐに長男の話をしてくる。
「〇〇くん、元気?」
最近まったく連絡してこないので、私も元気かどうか知らない。
「元気と思うよ」
と返事をしておく。
「何で?電話くらいしなさいよ」
便りがないのは元気な証拠っていう言葉がある。
いい年をした息子に、ちょくちょく電話する親はあんまりいないんじゃないかなと思いつつ、流す。
「結婚すればいいのにねー。まだ籍入れてないの?」
この間会った子持ちの彼女のことだ。
長男が転勤してもうすぐ1年。
転勤してからあまり連絡してこなくなったし、夏に帰省してこなかった。
彼女と別れたのかも知れないと私は思っている。
でも、そんなこと本人には聞けないし。
「さあ、別れたのかもしれんよ」
と私が言うと
「そんなことはない」
と根拠のない自信で母は断言する。
「結婚したら、バランスのとれた食事もできるしね。結婚すれば周りが一人前って認める。そういうもんよ」
と母の持論が展開する。
皆が皆、バランスのとれた食事を提供できる料理上手な女性ばかりではない。
今は市販のものも結構美味しいし、栄養バランスが良かったりする。
結婚しないと一人前じゃないとか、出世しないとかいう時代はもう終わった。
でも、そういう反論をしても母には通じないので、あえてしない。
「はい、わかった。もう帰るよ」
と私はこれを機に家に帰ったのでした。
まだ何か言いたげな母を残して。
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