親が認知症になったとき

私の父は13年前に亡くなったが、亡くなる3年ほど前から認知症を発症した。

私は一緒に暮らしてなかったので、どんな生活を送っていたのかよくわからないが、母が言っていたのかこんなことだ。

最初は物忘れが増えた。ついさっきのことでも、もう忘れている。

同じことを何度も言うようになった。

同じ行動を何度も繰り返して行うようになった。

電話がかかってきて、父が出て話したあと、その内容を後から母が聞くと適当に答えて、最後には怒り出す。

何か聞いてもすぐ忘れて、それを指摘すると「どうでもいい」とごまかし、怒る。

ほとんど交流のない近所の家に行き、「うちの車がなくなった」などと話し、騒いだこともある。

しかし、足腰だけは元気で、勝手に外出する。

介護保険の申請をし、要介護3と認定され、ケアマネジャーが決まった。

私の弟、つまり息子の結納式があった。

その場と関係のない訳のわからないことばかり話し、母と弟は気が気じゃなかったらしい。

そんなわけで弟の結婚式には出席しなかった。

親戚に父の姿を見せられないと。

苦渋の選択だった。

親戚になぜお父さんは来なかったのと聞かれ、そのたびに「それが、心臓が悪くて」とごまかす母。

父は結婚式に出たかっただろう。一人息子の結婚式だったのに。

その間、父は何も知らず、有料老人ホームに預けられていた。

そこは酒の持ち込みも許されていた。

しかし、酒を飲んで他の利用者とトラブルになったので、父を引き取りにきてほしいと連絡があった。

家に連れ戻してすぐ、散歩に出かけたまま帰ってこないので、母が心配して捜しに行ったけど見つからず。

道で転倒して、動けなくなっているところを通行人が救急車を呼んでくれて病院に運ばれた。

3日ほどの入院中も点滴を自分で抜いたり、徘徊したり大変だったらしい。

その後とうとう母は一人では面倒が見れないと、ケアマネに相談し、父は老人ホームにショートステイで預けられた。

1ヵ月間老人ホームに滞在し、いったん家に帰る。

帰った日は病院に行き、認知症の薬という向精神薬を処方され、次の日は別の施設のデイサービスに行く。

家に2泊して、やっとまた元の老人ホームのショートステイに戻る。

なぜ、続けてショートステイが利用できず、いったん家に帰らないといけないかというと、介護保険の関係で連続の利用はできないと言われたらしい。

そして、1日だけ別の施設のデイサービスに行くことで、ケアマネジャーにお金が入ってくるようになっていたのだと後から知った。

そんな仕組みがあるとはつゆ知らず、母はケアマネジャーの言う通りに病院に連れていき、施設に預け、父の面倒を看ていた。

父の認知症はどんどん進んだ。

薬のせいで父はぼんやりしていることが多くなり、よくよだれを垂らしていた。

トイレの失敗も多く、夜間はおむつをつけていたが朝大量に漏れていることも多かった。

ショートステイに行っている間はよいのだが、家に帰ってくる2日間が母にとって本当に大変だったらしい。

勝手に出歩く、トイレの失敗、何をするか目が離せない。

しかし私は話を聞くだけで、介護保険についてもケアマネジャーについても、まったく知識がなかったため、何をしたらいいのかわからなかった。

特別養護老人ホームが比較的安い利用料なので、そこに申し込みをしていたが、その当時特別養護老人ホームは大人気で、なんと60番目で到底待てるような順番ではなかった。

施設の順番がなかなか来ないことや、施設をどうすれば見つけられるのか、ケアマネージャーに相談しても親身になってはくれなかった。

なぜかというと、父が施設に入ってしまえばそのケアマネージャーの”お客さん”が一人減ることになるから。

施設が見つからずに今まで通りの方がケアマネージャーにとっては利益になるのだ。

そんなことも後から知った。

ケアマネージャーは私達のために動いてくれるのだと信じていた

費用が高くても少しでも早く父の預け先を見つけたいと、自分たちで有料老人ホームやグループホームを見学してみた。

しかし、費用が高い。1ヵ月15万~20万かかるのだ。

部屋代、食事代、おむつ代、ベッドレンタル代等々。

それでも仕方ないと、ほぼグループホームに入居を決めかけていた。

私の職場の上司がやはり父親の介護で苦労していた経験があったらしく、うちの状況を話すと親身になってくれていた。

私たち家族よりも介護についての知識が豊富で、合間に施設を探してくれ、老人保健施設を見つけてきてくれたのだ。

そこは家からは少し遠かったが、費用はグループホームの半分だった。

本当にその上司には感謝しかなかった。

すぐに入居を決めた。

そのことをケアマネージャーに話すと、喜んでくれるわけでもなく、ただ驚いていたそう。

2回くらい面会に行ったが、他の利用者はおとなしくテレビを観ているのに対して、父はおむつを付けられ、施設の中をウロウロしていた。

悲しい姿だった。

それから間もなく、父は肺炎で入院し、延命治療はせずにそのまま亡くなった。

認知症を患い、長く施設に預けられている人は多い。

早くに特別養護老人ホームなど費用の安い施設に入れた人は良いが、有料老人ホームやグループホームだと費用がかなり高く、本人の年金だけでは賄えず、子供たちの持ち出しになるケースも多いと聞く。

またそもそも費用が高いので、施設などに預けることができず、家で介護している人も多い。

私が働いている病院であったのだが、一人暮らしの親が認知症を発症していることにうすうす気づいていながら子供がほったらかしにしていたケース。

近所の人が見かねて食べ物を差し入れしてくれたり、何かと援助し、どうにかこうにか生活していたが、とうとうどうにもならない状況になって近所の人に通報され、病院に運ばれてきた。

ろくな食事をしておらず、風呂にも長期間入っていないので、ものすごいニオイを発している。

入院してきてはじめて、ソーシャルワーカーが介入し、介護保険や生活保護を申請し、本人の金銭問題が解消し、行先が見つかるというケース。

このケースも子供自身知識がないことから起きるのだと思う。

どこに相談すればいいのか、どうすればいいのか、誰も教えてくれない。

自分で調べるしかない。

ケアマネージャーというものは決して利用者に親身になってくれる存在ではなく、自らの利益の為に動いているものだと後からわかった。

全てのケアマネージャーがこのような人ではないと思うが、もっと早くケアマネージャーの交代をお願いしていれば、もっと介護の知識を身につけていれば、私の母のように苦労することはなかったのかもしれない。

私の父が生きていた頃に比べ、今はいろいろな情報が手に入りやすい世の中になっている。

適切な介護知識を身につけ、信頼できるケアマネージャーに巡り合うことが介護負担を少しでも軽くする方法なのかもしれない。

 

 

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