お客さん商売という仕事

私が初めてメイクをしたのは、

高校を卒業して、資生堂とカネボウのメイクアップ教室?に参加した時だ。

今は多分開催されていないと思うが、昔は3月にあちこちの会場で行われていた。

私たちは、就職する前にメイクを教えてもらう。

企業側は、これをきっかけに化粧品に興味を持って、購入してもらいたいということだろう。

帰りに基礎化粧品のサンプルと、メイク商品をいくつかくれるパターンが多かった。

カネボウのメイクアップ教室に行った時、アイシャドウのサンプルをもらった。

鏡がついた大きなパレットと、中にセットする小さなアイシャドウが2つだったかな。

とても嬉しくて、「このパレットをアイシャドウでいっぱいにしたい」と思った。

でも、まだ20歳そこそこの若い私にとって、

1つ、600円くらいのアイシャドウをカネボウのカウンターに行って買う勇気はなかった。

かといって、何十個も買うようなお金もなかった。

ある時、スーパーの中のカネボウのカウンターの前で化粧品を見ていたら、

美容部員さんが声を掛けてきた。

その美容部員さんは笑顔でとっても感じがよく、とても親切にしてくれた。

1つのアイシャドウを一緒に一生懸命選んでくれた。

嬉しかった。

それから何度かそこのカウンターを覗いてみたけど、

あのお姉さんはいなかった。

私が短大を卒業して、新聞の片隅の美容部員募集の求人を見た時、

あの時のお姉さんのことを思い出した。

化粧品が大好きになったのは、あのお姉さんの影響もあったと思う。

化粧品に囲まれて仕事ができるなんて楽しそう、とすぐに応募した。

縁あってカネボウではないが、美容部員として採用された。

実際の仕事はきれいごとではなかった。

常に売り上げを求められる仕事。

毎日の目標、月間の目標、イベント時の目標。

カウンターにちょっとした化粧品を買いに来るお客さんとの

温かいやりとりを想像していたのに、

現実は違った。

あのカネボウのお姉さんみたいになりたかった。

でも、カウンターに来たお客さんには、少しでも高い化粧品を勧め、

プラス何か別のものも買ってもらう、それが当たり前だった。

こういう仕事がつらくなって、結局2年で辞めた。

売り上げを上げている先輩たちは、とても強引な売り方をしていた。

そうでなければ、とても目標はクリアできなかった。

私にはどうしてもそんな売り方はできなかった。

販売には向いてなかったと思う。

幸か不幸か、知らない人に声を掛けるのは、今でもまったく苦にならない。

それはこの時に培われたものかな、と思う。

 

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